第35章 35話 重たい犠牲
そこにいたは、面をつけた男と、同じく面をつけた髪の長い女の姿。
そして虎よりも大きな白銀のイタチにとらわれているキリの姿があった。
シカ(くそっ、落ち着け!!)
ただでさえ、状況は最悪だ。
キリは馬鹿でかいイタチに捕まっていて、更に相手は暗部二人ときている。
実力勝負では、万が一にもシカマルが勝つ事はあり得ないだろう。
何か策を練って、その万が一の可能性を作り出さなくては。
頭の中では、そんな冷静な思考が浮かびはする。
……だが。
シカ(こいつのこんな声聞いたのは初めてだ)
キリの「助けて」を初めて聞いた。
キリのあんな叫び声を、初めて聞いたのだ。
たった一人でも、どんなにつらい状況でだって、そんな事は一度も言ってはくれなかったあのキリが。
ぶるぶると震えている拳は、決して暗部と対峙している恐怖からくるものではなかった。
シカ(っ、身体中が熱くて仕方ねえ)
人生で、こんなにも滾るような怒りを覚えたのは、生まれてこのかた初めてだった。
シカマルは即座に印を組んで、暗部に影を伸ばす。
避けられたソレに舌打ちをして、クナイを投げつけ、その勢いのままに暗部に突っ込んでいく。
キリ直伝の蹴りを入れるが、やはりそれは綺麗に受けられてしまった。
まだまだと、再び攻撃体制に入れば、暗部はシカマルと距離をとるように後ずさった。
『っと、おいちょっと待て』
シカ「うるせぇよ、それ以上キリに近付くんじゃねえ」