第35章 35話 重たい犠牲
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シカマルが渾身の力で振り抜いた拳は、ガードされたものの、暗部を数メートル後退させるほどの勢いがあった。
シカ「キリから離れろ」
ぶちぶちとシカマルの中で何かが切れて、体中の血液が沸騰するように熱い。
シカ「キリをさらってった忍っつーのはお前らの事か」
シカ(両方男だって話だったが、まだ他にもいんのか……?)
シカマルはここに来るまでの出来事を振り返る。
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ヨシノからお使いを頼まれ、鹿の角を使った薬を届けた後。帰って昼寝でもするかと帰路を歩いていれば、広場のあたりで子ども達が騒いでいるのが見えた。
只事ではない様子の子ども達に、一体なんだとシカマルも足を止める。
アサヒ「だからっ、連れて行かれたんだよ!」
『誰にだ?』
アサヒ「っ! 面をつけてたから誰かはわからねぇけど!! 男二人に! 姉ちゃんが連れてかれたんだ! 助けに行ってくれよ!!」
シカ「!」
不穏な会話に、まさか……と嫌な予感がする。
アサヒ「父ちゃん! 頼むよ、なんで行ってくれねぇんだよ!?」
すがりつくように父親の体を揺らす少年の周りでは、少し内気そうな男の子と女の子がいて、その二人も同様に必死で大人たちに訴えかけていた。
『連れてかれたってなぁ……あの他所から来た子だろう? あれとは関わるなとお前達にはよく伝えてあるはずだ』
アサヒ「っ!! あれなんて言い方すんな!! あの姉ちゃんは化け物なんかじゃねえ! 俺たちを守ってくれたんだ!!」