第35章 35話 重たい犠牲
私の事はいいから、と焦るキリを見て、フミの胸は更に痛んだ。
フミ「……助っ人が来た時の方が焦るなんて、普通逆じゃないのかい」
フミ(自分一人の時は顔色一つ変えなかったくせにね)
キリは反撃する好機も、防戦に徹していた。
あのままではキリはいたぶられ続けるしかない。
仮に暗部の目的がキリの暗殺であるのなら、キリはここで息絶えていたのではないか。
そうであっても、おそらくキリは抵抗しなかったのだろう。
そして、キリ本人も応戦こそしてはいたが、どこかそれを仕方ないと思っているような節もあった。
まるで死を受けているような。生きることを諦めているような……。
だから、多勢に無勢なあの状況でも、キリはあのような対応を取っていたのだろう。
フミ(それなのに、こんな老いぼれ一人現れただけで取り乱すなんてね)
優しくて、ひどく悲しい。フミが幼い少女を慮っていれば、暗部が動いた気配があった。
ガキンッ
キリ「っ……逃げて下さい! 早く!」
こんなにも、こんなにも。優しい心を持つ子どもに手を掛けようとした過去の自分が、悔やまれて仕方がなかった。
暗部の攻撃を防いだキリを、ぐっとフミの後ろに寄せる。
『フミさん……チッ、年老いて血迷ったか』
フミ「この子の優しさで今、命があるような若僧が……誰に向かって口聞いてんだい」
フミに暗殺依頼を言付け、終始最もキリをいたぶり続け、そしてキリが仕留める隙があったのもこの忍。
フミ「ったく、不愉快極まりないね」
こんなひよっ子の、命令に従った自分が。