第34章 さよなら またね
こんなにも自分に愛を与えてくれるのに、いつも、悲しそうな人。
だから、この人がいる時は、いつだってそばに居たかった。
こんなにも愛を与えてくれる人が、寂しいことが寂しかった。
いつかこの人に、聞かれたことがあった。
親や仲間と離れて、寂しくはないのかと。
家族や仲間に会いたいと思うことはあったが、いつだって、ここにいる人たちが自分を愛してくれていたから。
「だから、寂しくはないよ」
そう伝えたいのに、人の言葉を喋れないことが、ひどくもどかしかった。
キリもシカマルも、自分とのお別れを告げていた。
どんどん小さくなっていく二人の背中。更に追う足を早めれば、気が付かなかった障害物に足が絡んで、体は宙に浮いた。
そのままぐるぐると何度か視界は回まり、止まった頃に慌てて顔を上げれば、こちらに近付いてくる二人の姿が見えて、心底嬉しくなって喜びは波紋を広げていく。
やっと追いついた二人に、どうか置いて行かないでと、願いを込めてすがりつく。
そうすれば、ぎゅっと抱きしめてくれたキリは、やっぱりどこまでも自分に無償の愛を与えてくれる人。
ずっと抱きしめてくれていて、感じる愛情と安心感。
そんな中で、懐かしい匂いがした。
次第に近付いてくるその匂いは、紛れもなく両親と、一緒に産まれた兄のもので。
会いたかったその存在に、心は波立った。
すると、ずっと抱きしめてくれていた大切な人。
その人は、そっとその手を離して、また会いに来ると言った。
何度でもここへ会いに来ると、約束してくれた。
その言葉を聞いて、何度も何度も後ろ髪を引かれながら、迎えに来てくれた家族と共に森の奥へと足を進める。
自分が森へ帰るのをずっと見守ってくれていた三人の気配が、離れていくのを感じて後ろを振り返った。
すると、遠く離れたところにいる三人の後ろ姿が見える。
行かないで。
そう鳴いたこの声は、キリに届いていたのだろうか。