第34章 さよなら またね
さくさくと落ち葉を踏んで、三匹の鹿がこちらに歩み寄ってくる。
キリ「!」
本来、人間のそばまで来ることがないはずの彼らは、もうキリが手を伸ばせば届くような距離まで接近し、キリの腕に抱かれている鹿に鼻を寄せた。
体の大きな鹿が二匹に、あと一匹は連れてきた鹿と同じような大きさをしている。
キリ(この子たちが……あなたの、家族なの)
キリ達が森へ返そうと悪戦苦闘していた時のやり取りで、彼らはきっと自らの子ども、また兄弟の存在に気付き、群れを離れて迎えに来たのだろう。
キリ「………」
キリは、そっと腕を離した。
キリ「……引き止めて、ごめんなさい」
ゆっくりと優しく鹿の背中を押せば、鹿は戸惑ったようにこちらを振り返る。
キリ「会いに来る。あなたに会いに、何度もここに来る」
キリ(この子には、帰る場所がある)
キリにはもう、その居場所がない故郷に。
この子には帰りを待つ者がいる。
引き止めては、いけない。
キリ「会いに来ること、約束する」
そう言えば鹿はしばらくの間キリを見つめた後に、ゆっくりとゆっくりと家族のもとへと歩き始めた。
亀よりも遅いその歩みを止めて、一度こちらを振り返る。
キリ「またね」