第34章 さよなら またね
こんなことをするぐらいなら、敵に捕まって拷問にかけられた方がよっぽどマシだ。
もし今その二択を与えてくれるのなら、即座に自分はそちらを選択する。
シカ「だからってどうすんだよ」
「このままじゃ森に返せねぇだろうが」と言われて、シカクはちらりとキリ達に視線を向ける。
そこには、最近でこそようやく変化が見えてきたが、基本的に表情をあまり変えることの無いあの。あのキリが。
ひどく躊躇うようなつらいような、そんな表情を浮かべていて。
そんなキリに抱かれている鹿もまた不安で仕方がないのか、必死でその身を寄せている。
シカク(……いてぇ)
なんだろうこれは。このたまらない胸の痛み。
こんな二人の姿を見てるだけで、訓練や任務で慣れているはずのシカクの心がずきずきと痛んで仕方がない。
シカク「……つ、つれて帰るか」
シカ「!!」
ぼそりと呟かれた言葉。
シカマルが数時間に渡り、戦っていたというのに。ものの数分で心がへし折られた自らの父親に、シカマルは眉をひそめる。
シカ「なっ、そんなの出来るわけ……」
ちらりと、シカマルもキリ達を一瞥する。
シカク.シカマル「………」
もう、それでいいんじゃないか。
何もこちらの都合だけで、引き止めているわけではない。
鹿も明らかに自分の意思でそうしている。それならもういっそ……。
目の前の光景が、シカマル達の正常な判断を狂わせはじめた頃。
複数の足音が近付いてくるのが聞こえた。