第34章 さよなら またね
キリなりのけじめだったのだろう。
森へ返すと言ってから、一度も自ら鹿の体に触れることのなかったキリが、ぎゅっと鹿の体を抱きしめる。
ーーそうして、そのまま数時間が経過して、話は現在に戻る。
シカ「ここで、生活をするのが自然なんだ。あいつらも受け入れてくれる」
今もなお、膝をついて鹿の首もとを抱いているキリはこくりと頷いた。
シカ「今はつらいかもしれねぇが、こいつだってここで立派に生きていける」
その言葉にも、キリは一つ頷く。
シカ「……ここで生きてくことは、悪いことじゃねぇ。あいつの家族や兄弟だっている」
それにもまた、こくりと頷いた。
こんな問答を繰り広げて、早数時間。
シカマルはこれ以上どうすることも出来ずに、困り顔で二人を見つめる。
シカマルが言ってることの全てを理解しているのだろう。キリも、それに対して否定はしないし頷きもする。
だが、頭で理解していても、気持ちがそれを超えてしまったのだろう。鹿を抱く腕を離そうとしない。
そして、腕の中にいる鹿も、数時間に渡っているのに離れようとするどころか、少し安心した様子でキリにその体を寄せている。
こんな二人を無理やり引き離して、もとの場所へ返してくるなんて、そんな鬼畜な真似を出来るというのならば、頼むから自分の代わりにやってくれ。