第34章 さよなら またね
奈良家が代々管理して来た森だ。
野生の鹿は、シカマル達が危害を加えないことを理解しているし、反対に鹿が危害を加えてくることもない。
しかし、それは決して懐いているというわけではなく人間と一定の距離を保ち、それ以上には近付いて来ない。
そのため、仲間の群れを見つけて、キリ達は連れてきた鹿を送り出した。
が、いくら行けと言っても、その背を押しても、鹿はこちらに戻ってくる。
非常に頭の良い鹿だった。
自分の仲間を見つけて、興味津々で寄っていった際に、キリ達が立ち去ろうとした事で、自分を森へ置いて行こうとしている事を察してしまったのだろう。
慌ててこちらに駆け寄ってきた鹿に、困り果てたキリ達は、強行突破に出ることにした。
少し可哀想だが仕方がない。
鹿を抱えて群れに接近出来る限界まで近づき、そこに鹿を降ろした瞬間に自分達は来た道を駆け戻り、その場に鹿を置いてきた。
すると、後ろから悲痛な鳴き声をあげて、必死になってキリ達の後を追ってくる鹿の姿が見えた。
キリ「っ!!」
シカ「キリ! 止まるな!!」
振り返って立ち止まりかけたキリにそう言えば、キリはぎゅっと奥歯を噛み締めて、更にスピードを上げた。