第34章 さよなら またね
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シカマルとキリは子鹿を連れて、奈良の私有地である森の中を歩く。
シカ「もう少しいったところに、こいつの仲間の群れがある」
キリ「シカクさん達は来なくていいの?」
シカ「途中からは俺たちがずっと面倒見てたからな。最後まで俺らに任せるってよ」
キリ「そう」
キリは、ゆっくりと子鹿の近くにしゃがみ込む。
キリ「……元気で。もう怪我をしないでね」
子鹿と目線を合わせたキリの頬に、子鹿は顔を寄せた。
キリ「病気もしないで。ずっと、ずっと長生きしてね」
そう言えば、キリから声をかけられた事を喜ぶ子鹿が、ぴるぴると尻尾を振るう。
キリ「っ……この子はずっと群れから離れていたのに、突然群れに戻って大丈夫なの?」
長く故郷を離れたこの子が戻った時、周囲の仲間は受け入れてくれるのだろうか。
シカ「こいつらは鹿の中でも仲間意識がかなり強ぇんだ。どれだけ離れてようがそれは変わらねー。今からはこいつの親や兄弟、仲間たちが守ってくれる」
キリ「なら……良かった」
キリは優しく声をかけ続けていた。
これは良いことだから悲しむことはないと、あなたは幸せになってと、鹿に紡いだ言葉は自分に言い聞かせているように聞こえて、シカマルの胸がチクリと痛む。
そしてーー。
シカマルはどうする事も出来ずにただ立ちつくしていた。
キリとともに鹿を森へ返しに来て、かれこれ三時間は経過している。