第34章 さよなら またね
それが分かっていたからこそ、キリにとって別れはつらいだろうと思っていた。
なら、いっそ本人がいない間に。という案はシカクとヨシノを交えて話している間にも上がっていた。
だが結局、あれだけ面倒を見ていたキリの知らない間に勝手に森へ返す、なんてことは出来ないという結論に至った。
しかし、実際にキリと鹿のやりとりを目の前にして、シカマルの気持ちは揺れる。
やっぱりシカマル達が返しておくべきだったのか。せめて、ここまでキリと鹿の間に愛情が育まれる前に、どうにか対処するべきだったのでは、と過去を振り返って後悔してももう遅い。
シカ(俺だって……)
キリと鹿を含めて過ごす穏やかな時間が、好きだった。
シカマルだっていつまでも続けばいいと、そう思っていたのだ。
キリを傷付けたいわけでは、決してなかった。
ぐっとシカマルがこぶしを握った事に気が付いて、キリは顔を上げた。
キリ「どうして、あなたが謝るの」
シカ「……お前につらい思いをさせる」
そっと、キリは子鹿から手を離した。
キリ「……今からすぐに森へ行くの?」
シカ「……そのつもりだ」
キリ「……そう、じゃあいきましょう」
シカ「キリ……」
キリ「この子は……自分の場所にやっと帰れる」
キリ(この子には自分の仲間と帰る場所があって、それは、ここじゃない)
それをゆっくりと、自分に言い聞かせるように飲み込んで、キリは部屋を後にした。