第34章 さよなら またね
シカ「…………」
久しぶりのキリとの再会を喜ぶ子鹿は、らんらんと目を輝かせている。体を起こすと、その前脚をキリの胸元へとかける。
キリ(!! ………こんなに、大きくなったの)
立ち上がれば、キリの身長とさほど変わらないこの子は、もしかしたらもう子鹿というには大き過ぎるのかも知れない。
いつの間に、こんなに成長していたのだろう。鹿の成長はこれほど早いのか。
あまりにも無邪気に懐いてくれるから、まだまだ幼い気がしていたのに。人間とは生きる速度が異なるのだ。
両手でわしゃわしゃと頭をなでれば、子鹿は嬉しそうにキリを受け入れる。
とんっと前脚をおろした子鹿を見つめていると、後ろから謝罪の声が響いた。
シカ「っ……わりぃ」
キリと、鹿のやりとりを見て、シカマルは胸を詰まらせる。
キリが病院にいる間に、返しにいった方がいいのではとも思った。
これまで、キリと共に鹿の治療を行なっていたシカマル。
献身的なキリの治療と、キリの鹿に向ける愛情は、鹿にも充分に伝わっていた。
鹿もシカマルやシカク、ヨシノに懐いてはいるが。キリに対しては絶対的な信頼を向け、他とは全然違う愛情表現も見せる。
もしかしたら、幼い鹿はキリを親のようにも思って、慕っていたのかも知れない。