第34章 さよなら またね
キリと子鹿のやり取りを見て、シカマルは少し言い淀んだが、続きを口にする。
シカ「………………時間は、かかったが今はそいつの傷も良くなって……完治した。だから今日、そいつを森へ返しに行く」
キリ「!!!」
シカ「キリが病院にいた間に、治療は終わってたんだけどよ。……お前もずっと面倒見てくれたからな、キリの退院を待って一緒に返しにいくつもりだった」
キリ「………」
目を丸くしていたキリは、するりと足に寄ってきた子鹿の感触にハッとする。
シカ「……本来、鹿は人間と一緒に暮らすもんじゃねえ。森で、自然の中で、仲間や親と群れを成して暮らす。傷が治ったなら、少しでも早く自然に返さなきゃならねー」
キリ「……そう」
キリは、もう待ったから早くなでてくれと言わんばかりに、こちらを見上げてくる子鹿の頭を優しくなでる。
キリ(この子を森へ、返す)
それは、考えた事がないわけではなかった。
シカマルの言い分も至極まっとうで、理解は出来る。
でも、キリが木ノ葉に来てまだ三ヶ月やそこらで、森の中の崖で瀕死だったこの子と出会って。
特にキリがこの家に住むようになってからの二ヶ月弱は、ほぼ毎日この子と一緒にいて。
出会ってから今まで。その期間、約半年。
キリ「ずっと、いたから。あまり……考えてなかった」
共に居る期間が長くなればなるほど。
確認した事はなかったが、もしかしたらずっとこのままここに居るのでは。なんて事を勝手に考えてしまっていて。