第34章 さよなら またね
角を曲がったところで、互いに鉢合わせた二人は、その歩みを止める。
シカ「やっぱお前だったのかよ!? なんでこんなとこに」
「病院はどうしたんだ」と、目を丸くしているシカマルの手には、一輪の桃色の花が握られていた。
キリ「っ……」
見舞いの花を見て、きゅっと締めつけられた心臓は、樹の里を思い出している時とはまた異なる痛みだった。
キリ「……とても優秀な医療忍術を使う人が担当してくれて、もう治療の必要はないって」
ふと五代目になった綱手の名を出そうとして、やめた。
まだ公に発表されていない事を、不用意に口外するべきではないだろう。
シカ「お前それ本当に大丈夫なのかよ? かなり顔色悪ぃぞ」
いくらなんでも早すぎるだろうと、キリの顔を覗き込めば、真っ青な顔をしたキリは小さく首を振った。
キリ「平気」
シカ「でもよ」
うっすら汗をかいている事に気付き、シカマルがもう一度病院へ連れて行こうとすれば、キリは再度首を振る。
キリ「これは、違うから」
シカ「違うって……何か、あったのか?」
そう問いかければ、小さく視線を伏せたキリは、酷くつらそうに見えた。
そして、井戸端会議をしていたらしい主婦たちが遠巻きに、こちらを見ているのに気付く。
そこからは、ごちゃごちゃと耳障りな事が聞こえてくる。
『ほら、あの子でしょう。樹の里で……』
『やだ、まだいるの?厚かましいわね』
『子どもが心配だわ……大丈夫かしら』
シカ(聞こえてんだよ)