第5章 迷子の鹿
* * *
シカクがシカマルと手分けして、いなくなった鹿を探していた時。
急に息子がいる方角で殺気を感じて、そちらへと急ぐ。
その場に到着すれば、探していた鹿を抱いて溢れんばかりの殺気をシカマルに向けている女の子と、その子に影真似の術をかけている息子の姿があった。
キリ「連れ出した……?」
シカク「なにしてんだ」
シカ「親父」
滝のような汗を流しながら、子鹿を抱いている女の子を見る。
シカク「シカマル、術を解け」
シカ「は?なんでだよ」
シカマルを睨めば、ったくなんだよ と渋々女の子を縛っていた影を解いた。
シカク「悪かったな、お嬢ちゃん。俺は奈良シカクだ。こっちは息子のシカマル。お嬢ちゃんの抱いているそいつは奈良家が管理してたんだが、いなくなって探していた所だ。お嬢ちゃんが保護してくれたのか?」
キリ、シカ「!!」
術が解けて、今にも里に走り出しそうにしていた女の子が、こちらに向かって駆けてくる。ばっと両腕を差し出され、真摯な視線を向けられる。
キリ「早く!ずっと血が止まらない」
差し出された鹿を受け取れば、体温は少し低くなっていて、息も荒くなっている。
シカク(これはちっとばかしやばいな)
シカク「シカマル!すぐに戻って治療にあたる。お前は指示をした薬の材料を持ってこい!」
シカ「えっ あ、あぁ」
シカク「お嬢ちゃん、うちの息子が悪かったな。また改めて礼を言わせてくれ」
去り際にそう女の子へ声をかければ、そんなことはどうでもいいから早くいけと怒られてシカクは苦笑する。
女の子と別れた後、黙ったまま後ろをついてくる馬鹿な勘違いをした愚息は、なんともバツの悪そうな情けない顔をしていた。
…………………………
シカク「おい、バカ息子」
シカ「……悪かったよ」
シカク「それを言う相手は俺じゃねぇだろ」
シカ「…わかってる」