第29章 解毒薬
シカ「くそっ、わかんねー」
それでも、シカマルはいくつかの材料を手に取り、薬研の中に放り込む。
ごりごりと合わされた材料は、とろりと形を変えて、キリの目の前に差し出された。
シカ「効くかわかんねーけど」
キリ「……………」
シカ「わりぃ、解毒薬はよくわからねー」
今にも泣きそうに顔を歪めて、シカマルはぎゅっと下唇を噛んでいた。
シカ「気付いてやれなくて……ごめんな」
キリ(どうして、あなたがそんな顔をするの……)
キリの胸がひときわ痛んだ。
差し出された解毒薬に、視線を落とす。
キリ(私には……)
もしも、これがきちんと解毒薬として製薬が出来ていたとしても、キリには効かない。
木ノ葉隠れの病院で、医療班ですら苦戦したそれを、今シカマルが出来ている可能性はゼロに近い。
これを飲んだとしても、何の意味もないだろう。
でも、今は。
その言葉が出てくることはなかった。
キリはシカマルが調合した薬に手を伸ばすと、ごくりとそれを飲み込む。
シカ「手、貸してくれ」
そう言って、キリの手をとり、マッサージを始めたシカマルに、冷たくなっていたキリの手先にぬくもりが戻る。
シカ「まだ痺れるか?」
キリ「……あ」
シカ「っ! どうした⁉︎ 痛むか⁉︎」
キリ「痛くなくなった……? 手足は……まだ痺れてるけど」
まだじんじんと痺れる手足の感覚は戻ってはいないが、胸の痛みがするりと取れた。
キリ「……効いた、のかもしれない」
シカ「!」