第28章 悪意の善意
そこまで聞いて、フミが身体の力がふっと抜けたのがわかった。
フミ「なんて……私はあの子になんてことを……」
混ぜた毒薬に、本人が気付いているとは思っていなかった。
だから、一度目で効き目がなかったことで、二度目に淹れた茶には大量の毒を混ぜ込んだ。
それを全てわかった上であの子は、穏便に事を済ませようと、何も言わずに飲んだのだ。
まだ十歳を少し超えたばかりの子供が、その選択肢を選ぶのは、これまであの子が歩んで来た道のりが決して易しいものではなかったということだろう。
フミの中に、言いも出来ない罪悪感が、痛みを伴いながら巡る。
そんなフミを見て、カカシはフミから視線を下げた。
カカシ「……仮にキリと戦闘になったとしても、あなたならキリを始末する事が出来る」
引退したとはいえ、元は暗部の最前線にいた忍だ。キリが相手をするには、まだ幼過ぎる。
カカシ「そして、すでに忍の世界から遠のいているあなたなら、キリとの接触もない。……上層部は、あなたの里への献身性とその実力を利用したんでしょう」
ジリジリとした痛みが、フミの胸に巣食う。
あの子は、何を思っていたのだろうか。
そして、今。何を思っているのか。
どうか、何も言わないあの子のために、その怒りをぶつけてきた奈良の倅が、フミがしでかした大きな過ちを少しでも軽くしてくれている事を祈った。
取り調べ室の中に漂う、よどんだ空気が二人を包む。それが重苦しくて、たまらなかった。