第28章 悪意の善意
フミは暗部の指令を思い出す。
暗部はまず刺客を送り、自分たちでキリの暗殺を試みる手筈だった。
それに勘付かれた場合、フミが住む方面に逃げてくる可能性があると、説明を受けた。
そしてフミがそこで待機していれば、聞いていた話とは違って娘一人ではなく、奈良のぼっちゃんと二人で姿を現した。
少し予定とはズレてしまったが、作戦実行のため、フミは遠目からキリたちの様子を伺っていた。
疲労困憊なぼっちゃんに反して、キリのその無機質過ぎる表情。
なんて子供らしくない娘だと感じたと同時に、普通とは異なることがすぐに理解出来た。
しかし。
しばらく二人を観察していれば、娘は、息を切らして汗を流していたぼっちゃんの汗をぬぐい始める。
ぼっちゃんは、それに対してあわあわと随分と子供らしい表情を見せていた。その反応でぼっちゃんが娘に対してどんな感情を抱いているのかは分かった。
だが、好意的に娘を思ってはいるが、ぼっちゃんはまだ子供で、娘の木ノ葉への企みを知らぬままなのだと。
それどころか、娘に騙されている可能性もあると。
そう思ったが……どうにもその時、娘の態度が、ぼっちゃんの事を本当に気遣っているようにも見えた。
娘の表情こそ不自然なほどに動くことはないが、仲睦まじい子供二人の姿にも見えたのだ。