第28章 悪意の善意
キリ「……私がここにいることは、求められていない」
シカ「んなわけ、ねー……だろうが」
自分を卑下するキリに、少しカッとなって隣に並んでいたキリの方へと体を向ければ、その瞳が強く哀しみの色に揺れていて。
またシカマルの胸に締めつけられたような痛みが伴った。
シカ(なんで、そんな顔してんだよ)
先ほどまで、いつもと変わらないキリだったはずだ。
可愛いと言った時には、目を丸くして驚いていたのに。一体いつ、何がキリの琴線に触れたのか。
シカ「キリ? どうした?」
シカ(俺が何か余計なこと言っちまったのか……?)
再び老婆の足音が近付いてきて、キリはシカマルの問いに答えることはなく、顔を背けた。
フミ「おや、何かあったのかい?」
襖を開けたフミは、二人の微妙な空気に首を傾げる。
シカ「や、何でもないっす」
そう言えば「そうかい?」と再び、新しい茶が注がれた湯呑みが二人の前に差し出される。
キリ「…………」
ちらりと隣を見れば、キリが小さくこぶしを握っていたのが見えた。
咄嗟にシカマルは、その握られたこぶしを掴む。
シカ「あー、すんません。今日は帰ります。また親父連れてくるんで」
フミ「!!」
キリ「!」
手を掴んで、立ち上がろうとしたシカマルに、キリは小さく首を振った。
キリ「…………ありがとう。でも、いただきましょう」
そっと、キリから手を重ねられた後に、シカマルの掴んでいた手は外される。