第28章 悪意の善意
キリ「………いただきます」
ゆっくりと、キリは一度で湯呑みの中身を全て飲み干した。
熱いお茶は、喉に少しの痛みを伴いながら、キリの身体の奥へと染み込んでいく。
フミは残っていた荷物を全て片付けると、すでに中身のない二人の湯呑みを一瞥する。
フミ「おかわり、淹れてこようね」
フミはにこりと微笑み、湯呑みを再びお盆に乗せて、また奥へと戻っていく。
そして、残された二人にはまた沈黙が包む。
いつも、キリとは四六時中話しているわけではない。むしろ、同じ場所にいても話しをしていない時間の方が圧倒的に多いだろう。
しかし、最初の頃は張り詰めていたキリの空気も、今ではかなり穏やかになっていて、シカマルは二人でいるその時間を好んでもいた。
だが、今のこの沈黙は酷く居心地が悪い。
シカ「……キリ「私」
発した言葉が、タイミング悪くキリの声と重なる。
シカ「あー悪い……どうした?」
キリ「……………」
シカ「キリ?」
キリ「私は、やっぱり……。この里にも、居てはいけない」
悲しいような、知っていたような、諦めたかのような、そのどれとも言い難い様子でキリはそう呟いた。
シカ「は? 急に何言ってんだよ」