第28章 悪意の善意
けれど、せめて今を。
今のキリと、今からのキリと、自分は少しでも共に在りたいとそう思う。
シカ「何でも……一人でやろうとすんなよ」
これがキリに伝えることが出来る、精一杯の言葉だった。
「俺がお前を守るから」そんな言葉は、キリよりも大きく劣る自分にはとても言えなくて。
キリの前に出るには今はまだ弱すぎて、守られるばかりの自分の実力を呪った。
シカ(強く、ならねーとな)
先導してくれるキリの後ろをついていくのではなく、その隣に立てるように。
そして、キリが窮地の時には、自分が前に立てるように。
キリがその小さな身体に背負っている、大き過ぎる重荷を、シカマルも背負うことが出来るように……そうなりたい。
伏せたままの視線を上げようとしないキリとの間に、沈黙が訪れる。
しばらく続いたそれを破ってくれたのは、ぱたぱたと近付いてくる足音で、それが部屋の前で止まると、襖は開けられた。
フミ「待たせて悪かったね。まだ熱いから気をつけるんだよ」
お盆に乗せられた二つの湯呑みが、シカマルたちの目前へと置かれる。
シカ「すんません、いただきます」
キリ「……………」
淹れたての芳しいお茶の香りが鼻に抜ける。
キリはじっと湯呑みを見つめてから、それを手に取った。