第28章 悪意の善意
キリ「でも、私のせいで……」
シカ「お前のせいじゃねえって。つーかよ。そんな気にすんならな、今までお前に何回も助けられてる俺はどうなんだよ。少しぐらい俺にも返させろっての」
いつもより暗い表情のキリが、きゅっとこぶしを握ったのが見えた。
キリ「………………ありがとう。さっき、助かった」
シカ(おっ)
小さく小さく呟かれた言葉は、しっかりとシカマルの耳に届いた。
対して役に立った記憶がなく、さっき、と言うのが今回のどれを指しているのかはわからないが。どう伝えても、キリは突っぱねてくると思っていた。
割と素直に頷いたキリに、にやりとシカマルの口角が上がる。
キリ「……なに」
シカ「いやー? いつもそうなら可愛いのによ」
キリ「!? なっ」
なに言って……と、目をまんまるに開いたキリに、つい笑い声がもれてしまった。
シカ「くくっ……男は頼られたり、甘えられたら嬉しいもんなんだよ」
くっくっとシカマルに笑いながら言われて、キリの中にヒナタの言葉が浮かぶ。
【ほんの少しでいいから自分を許してあげて、誰かに甘えてください】
キリ「っ、私は、そんなこと……してはいけない」
シカ「あ? なんでだよ」
キリ「………」
ふいっとキリは、シカマルから視線を逸らした。
シカ(これ以上は言わねーか)
これが、今のキリとシカマルの距離なのだろう。
キリは自分の事を全くもって話しはしない。
それは、話したくないことなのだろうから、シカマルも聞かない。