第28章 悪意の善意
にこにこと人の良さそうな老婆の姿に、記憶を巡らせてみるが、心当たりはない。
さらに、重ねて申し訳ないが、今は気持ちがそれどころではない。
シカマルがキリへ視線を向けると、そこにはいつも通りのキリがいて。
先ほどのことを気にしている様子は全くないが、シカマルの行動のせいですれ違ってしまった今の状況を一刻も早く解消したい。
……かと言って、古くからシカマルを知った様子であるこの老婆を無視して、キリとの会話を再開するわけにもいかないだろう。
シカマルは老婆の方へと向き直った。
シカ「すんません、覚えがないんすけど……親父を知ってるんすか」
そう言えば、老婆はけたけたと笑いながら頷いた。
フミ「そうか、そりゃそうさ。あたしの名はフミ。出会った頃のぼっちゃんは、赤ん坊だったからね。覚えていなくて当然だ。なに、昔ねシカクさんにはよくお世話になっていたんだよ」
話によれば、シカクは以前、体の悪かった老婆に鹿のツノを用いた薬を渡していたようだ。
それはフミの体によく効いたようで「おかげ様で今もこうして元気にやってられるんだよ」と、彼女はふわりと目を細めた。
フミ「おやぼっちゃん、よく見りゃ汗だくじゃないか。どうだい、お連れのお嬢ちゃんと一緒に少しうちで休んでいかないかい」
「家はすぐ近くなんだよ」と、老婆は自宅がある方向に指を差す。
フミ「家にはもうずっと一人でね、休憩ついでに少し話し相手にでもなってくれたら嬉しいんだけどね」
シカ「あー、いや……」
そんな風に寂しげに言われると、断り難い事この上ない。
しかし、先ほどまで追われていた身だ。人通りのある所まで戻ってはいるが、さっさと木ノ葉の中心部まで戻ってしまうべきだろう。
それに、今はキリのことも気掛かりだった。この手の事は、時間が経ってしまう前に解決しておくべきだ。