第28章 悪意の善意
第28話 悪意の善意
シカ「はっ、ぜぇっ、はぁっ」
ぼたぼたと汗がしたたり落ちる。
あの後も森を走り続けて数時間。
やっとのことで、里の人通りがあるところまで戻ることが出来た。
キリ「………大丈夫?」
シカ「はぁっ、は、この、ぐれー……、はぁっ、余裕だっつの」
疲労が溜まりすぎて、かたかたと笑っている膝に手をつきながら告げる。
ちなみに、同じ距離を同じスピードで走っていたはずのキリは、何度か大きく呼吸を整えただけで終わっていた。
シカ(あー……足が使い物になんねー)
本当にいつ膝から崩れ落ちてもおかしくはない。
むしろ、この状態で今ここに立っていられる自分を褒めてやりたい。
キリ「……汗、すごい」
シカ「っ!!」
ぐいっとキリは自らの袖で、シカマルの額にある玉のような汗を拭う。
シカ(なっ、ちょっ待っ)
ぽんぽんと汗を拭いてくれるキリの顔が近くて、その顔が少し心配そうに見えて。
シカ(い、いや、いつもの無表情じゃねーか)
そう、きっと普段と変わらない。
いまシカマルが自意識過剰であるだけなのだろう。
しかし。
ちらりと、つい逸らしてしまった視線をもう一度キリへと向けると、やはり、少し心配そうな表情に見える。
シカ(やべぇっ……)
もしかしてキリが今、自分の心配をしてくれているのだろうかと思えば、どうしようもなく嬉しく思ってしまった。