第5章 迷子の鹿
しかし、あの後の周りの反応を見れば、私が場違いでおかしい事はすぐにわかった。
やはり、私は化け物でおかしいのだ。普通の人とは違うのだろうと、改めてそう思った。
普通でない私は、こんなに綺麗な木ノ葉には馴染む事など出来ないのだろう。
そんな私が、里内を歩くには周囲の目が痛い。
多くは侮蔑と差別。他にはスパイ又は危険だと疑っているのか、敵意のこもったものもある。その視線の主が、いつ私に向かってくるのかもわからないと思えば、いつだって神経は張り詰めた。
優しい木ノ葉の里も私には、肩の力が抜けない場所であった。
だからこうして、たまに休みに森の奥を散歩して気を紛らわせる。
まあ森の奥まで来たところで。私がこの里に住む事が決まったその日から、必ずどこかにいる監視がいなくなる事はないのだが。
急に木ノ葉に訪れたよそ者に対して、監視をつけるのは当たり前の対応でもある。
しかし、朝から晩まで私が家にいようがどこに行こうが、少し離れたところから監視をされ続けるのはやはり気が休まらない。
それでも家にこもれば一日中、樹の里のこと、両親のことを深く深く思い出してしまう。
それに比べれば、こうして森の中をあてもなく散歩をする方が何倍もマシであった。
「きゅー……」
つい昔のことを思い返していた時、小さな鳴き声が聞こえた。
きょろきょろと辺りを見回してみても、その姿は見えない。
「…きゅ」
再び聞こえたその声を辿る。弱々しい鳴き声に自然と早足になった。