第5章 迷子の鹿
キリはふらふらとあてもなく森の中を歩く。
木ノ葉の敷地内ではあるが、こんな森の中まで里の人が来ることはあまりない。
私が樹の里から木ノ葉へ来て、3ヶ月が経った。
忍者学校であるアカデミーへ通い、色々な人達と出会ったが、私はここに馴染めずにいる。
いや「馴染まない」が正しいのかもしれない。
私自身、誰かと仲良くするつもりは一切ない。
最初の自己紹介で、みんなを突き放した。
それでも初めの頃は、心配して気にかけてくれた長い金髪が綺麗な、いのという女の子や、直接突き放した張本人であるナルトが、孤立した私によく声をかけてきた。
彼らを中心に、いつも必要以上に冷たくあたる事で、関わりをさらに断ち切った。
それに伴って、陰口などが増えたがそれはそれで好都合であった。
もう二度と、私に親しい人などは必要なくて。いや、それ以前に、そもそも人殺しの私に、そんな存在をもつ資格はないのだ。
ここへ来てわかったが、木ノ葉隠れの里はとてもいいところであった。
よそ者で良くない事情のある私は別として、基本的にみな穏やかで優しい性質をしている。
アカデミーのみんなが根が良い子であることには、イルカの人柄も大きく影響していそうだが。
あぁでも、やはり「馴染めない」で間違いはないのかもしれない。
ここへ来た私の「良くない事情」を知っている大人たちに里内で遭遇すれば、その目はとても侮蔑的で、中には敵意のこもった視線を向けてくることもあった。
この手で両親を殺して、里の人達を何人も殺した私には、それも妥当な対応だろう。
だが、アカデミーで初演習の時。
秋道チョウジと日向ヒナタとの試合で、私は特にみんなに嫌われるために何かをしたわけではなかった。
ただただ、普通に戦っただけだ。
確かにあの時、ヒナタの肋骨が折れた事はわかっていたし、チョウジの腕も折った。
そこに追撃を入れたことも、もちろんわざとである。
相手の弱点をつくのはセオリーであったし、そして何より折れた事で戦闘不能になるとも思わなかった。
血を吐こうが、腕が醜く折れようが、私はまだ戦える。