第26章 両手に花
このキリの性格では、これを言うまでにずいぶん悩んだだろう。
一体いつから悩んでいたのだろうか。
自分の教え子に、こんなにかわいい事をされれば仕事の疲れだって、どこかへ飛んでしまった。
それと同時に、シカクは心に強く思う。
シカク(早く捕まえてやんないとな)
大切な部下を狙う愚人を、野放しになんてしていられない。
その時、ふと視線を感じて、シカクは後ろを振り向いた。
そこには何とも言えない複雑な顔をしている息子と、良かったねと優しく微笑んでいる愛妻がいて。
そんなヨシノと目が合うと、年甲斐もなくきゅんとしてしまった。
普段は気の強いヨシノだが、そんな彼女が見せるこの優しい表情に、自分はもう何年も前から惚れているのだ。
シカク「母ちゃんっ」
ヨシノ「えっ ちょっと!」
右腕にキリ、左腕にヨシノを抱いて、シカクはにこにこと上機嫌な笑みを浮かべる。
ヨシノ「あんた良い歳して何やってんの、恥ずかしいでしょうが」
まったく、と呆れた様子で、それでも降りようとはしないヨシノにまた愛しく思う。
守るべき愛しい存在を再確認する。
今日という日を思い出せば、自分はいつまでも間違わずに歩んでいけるだろう。
シカク「あー今日はいい日だなぁ」