第26章 両手に花
しかし、ここまで来て言わないわけにもいかないだろう。今更何もありません、では間違いなく余計な心配をかけてしまうことになる。
たった十文字にも満たない言葉を何故言えない。
もう決めたのだから、さらりと、さらりと言ってしまえばいいのだ。
キリ「あ…の、お……おかえりなさい」
シカク「!!」
最後の方は、ほとんど消えてしまっていたその小さな声は、しっかりとシカクの耳へと届いた。
下を向いて視線を伏せているキリを見て、瞬時にシカクの胸にあたたかな気持ちが広がる。
シカク「ははっ、キリ、ただいま」
キリ「!!」
ひょいっとまだまだ軽いキリの体を、まるで幼い子どもに高い高いをするように抱き上げると、やっと伏せがちだったキリと目が合った。
シカク「なんだ、もしかして俺を待っててくれたのか?」
キリ「……」
そう問えば、少し顔を赤くしたキリに、シカクはもう一度笑った。
シカマルとヨシノが言うキリの様子がおかしい原因は、これの為だったのだろうか。
少なくとも、今見ている限りではキリが悪い方に向いているようには見えず、シカクにいつまでも笑みがこぼれる。