第26章 両手に花
キリはいまだ、里に受け入れられていない。
シカクは決してキリに話さないが、キリといることで、シカクが上の者から度々呼び出されていることには気付いている。
里内を歩けば、キリに向けられる隠すつもりのない悪意ある言動の嵐。それにシカクまで巻き込まれることは少なくなかった。
【なんであんな子と、あんなのの担当上忍になるなんて気の毒に】
キリに親しげな態度をとるシカクを見れば 【奈良の奴らもやきが回ったものだ】 そんな心ない言葉達を向けてきた。
キリの隣にいたシカクにも当然耳に入っていたはずだ。
それでも、そんな時でも。
シカクはいつだって、堂々と前を向いていて。
極力、人目につかないように里を歩いていたキリに。
「俺の隣にいろ」と、言ってくれた。
「言いたい奴には言わせておけ、お前は俺の自慢の生徒だ。それをいつか、里の奴らもわかる日が来る」
そう言って、いつも一緒に歩いてくれたのだ。
自分への蔑みや非難の言葉を、キリ自身は気にとめていなかった。それは仕方がない事なのだから。
そう。気には、とめていなかったのだが。
そんなシカクの言葉が、とても嬉しかったことは本当で。
今でも好き好んで自ら出歩くことはないが、以前とは違い、必要があって里内を歩く時に、こそこそと隠れることをしなくなったのも事実。
こんな風に与えられてばかりの今の自分に、心苦しく思った。
今もキリのためにと、身を粉にして働いているシカクに、自分は何かを返すことは出来ないのだろうか。