第25章 旅芸人
キリ「さっきのタイミング」
シカ「?」
キリ「さっきのが、正解。あれは必ずあなたの方が早く届く。あそこで出せなかったら、勝負にならない」
「だから、さっきのタイミングを覚えて」と、キリから言われて、思わず顔を顰めた。
シカ(まじかよ……)
キリは、さも当たり前のようにそう言うが。
先ほどの攻撃が届くタイミングは、本当に僅差だった。もう少しでキリからの攻撃をノーガードでもらうところだったのだが、これを毎回やれと言うのだろうか。
そんな博打みたいな事を毎度毎度やるなんて、命がいくつあっても足りないのではないか。
さらに博打をして初めて、シカマルは勝負の土台に立てるというのだ。実に信じたくない事実である。
しかし、防戦一方の組手を思い返せば、その通りなのだろう。シカマルはまだ、キリの相手にもなれていないのだ。
キリ「もう一回」
息をつく間もなく、スッと構えたスパルタコーチに倣って、シカマルも構えに入る。
おそらくキリには、シカマルの成長が見えたのだろう。
キリの表情が幾分、普段よりも明るく見える。そんな顔を見てしまえば、博打だろうが危険だろうが、毎回だって何度だって、やらないわけにはいかない。
シカ(っし、あれだ。さっきのタイミングだ)