第23章 小さな花
同時に、キリの心臓が大きく跳ねる。
頭に樹の里のみんなが浮かんで。
あの日キリが生み出した血に塗れた光景と、その後のみんなからの憎悪を含んだ視線がキリに刺さって、息苦しさすら覚えた。
キリ「やめて」
顔をしかめて言われたキリからの拒絶の言葉に、ヒナタは少し身を縮めて、申し訳なさそうに「ごめんなさい」と声をもらした。
キリ.ヒナタ「「………………」」
長いような、短いような重たい沈黙は、小さく破られる。
ヒナタ「わたしも……自分を許せないの」
名家である日向という本家に生まれた、出来損ないの自分に、もうずっと嫌気が差していた。
妹にもすでに実力は追い抜かれ、分家にいる才ある兄の足元にも及ばない落ちこぼれの自分が。
ヒナタ(でも……)
暗く、落ちていきそうなヒナタの心に、光が灯る。
ヒナタ(いくら落ちこぼれと言われても、前を向いて走り続ける人がいるから……)
憧れのあの人に、少しでも置いて行かれないように。
どうか、少しでも近付けますように。
その為には、いつまでもそこに佇んでいるわけにはいかない。ヒナタも彼のように、立ち上がらなくてはいけないのだ。
ヒナタは一度大きく深呼吸をする。
ヒナタ「いつか、ちゃんと自分の優しさに気付いてください」
キリに、少しでも伝わりますようにと、願いを込めてそう言った。
だってキリのように、こんなにも優しい人が、誰の手も借りずに一人で生きようとしているなんて。
計り知れないような大きな傷を背負って、自分を許せないのだと、責め続けているなんて。
酷く悲しいと思った。