第23章 小さな花
キリ(ここにいたら、私は駄目になる)
「新しく訪れた先で居場所を作りました」なんて。
故郷の樹の里で、両親と同郷の命を奪った自分が、一体どの口でそんな事を言うつもりなのか。
言えるはずがなかった。あの日を、自分がしでかしたことを忘れた事なんて一度だってない。
すでにこの世にいない彼らに、もう一度会う術はない。自分がそうさせたのだ。
それに亡くなった人だけではない。彼らと共に生きるはずだった人たちを含め、その日常を、幸せを、未来を、奪ったのはこの手であるのに。
キリ「言えるはずがないでしょう」
ギリギリと音をたてて胸が軋む。苦しくてたまらなかった。
自分が今、どれだけの命を奪って生きていると思っているのか。
もとより、もう長く生きるつもりなどはなかった。
カカシに拾われたあの日は、自分でもその時の状況を把握出来ずにいた。そして流れるように、ここでの生活は始まりを遂げた。
しかし、考えれば考えるほどに自分の過ちは許されることではなく、それは許す余地すらないものだった。
キリ(本当は死んでしまいたかった)
何度も、何度もそう思ったが、それでも自分にはやらなければならない事があった。今、自ら命を絶つわけにはいかなかったのだ。
そうでもなければ、樹の里のみんなにあまりにも、申し訳が立たないではないか。
キリはもう自身の最期の時を定めている。
その時が来るまで。木ノ葉に恩を返しながら在ろう、そして、その時が来れば、自分はついにこの命を絶えることが出来る。
先は長くないであろうこの道に、仲間も、幸せも、要りはしない。
奈良家に到着し、自室で休んでいれば、コンコンと控えめにドアが叩かれる。
シカ「キリ、ちょっといいか」