第23章 小さな花
結局キリはその後も、三代目が用意してくれたアパートに戻るということを言い出せずに、二日が経ってしまった。
何故か居間で四人で眠るという不可解なことが起こったのが二日前。
さすがに翌日からはそれぞれの部屋に戻って就寝したのだが、あの日、キリは思ったことがある。
キリ(……ヨシノさんは怒らせると怖い)
そう。ヨシノは怖いということ。
キリの両親はとても穏やかな人達だった。
なにかいけない事をしてしまった時も、注意されることはあれども、怒ったところは見たことが無いほどに。
またキリはおそらく、手が掛からない子供だっただろう。
両親がいた家でも、施設の中でも、ヨシノのように真っ直ぐ面と向かって叱られた記憶があまりない。
再三、シカクから「うちの母ちゃんは怒ると怖い」ということを耳にしていたが、今ならそれに激しく同意出来る。
ヨシノを決して怒らせてはいけない。それは今回身をもって知った教訓だった。
キリ(……痛い)
そして、他にもキリの中で変わってしまった事がある。
三人が必死になって、帰ってこないキリを探していた。
あの日から胸の奥、心臓、そのどれとも言い難い辺りが、キリの中が、酷く痛むようになったのである。