第22章 子供の宿命
ふと、森の中でキリに出会ったことを思い出した。
シカマルが、いなくなった子鹿を探していたあの日。
普段ならば誰も好んで入ることのないような深い森。
キリはシカマルのように子鹿を追って、森に居たのではない。おそらく子鹿と遭遇したのは偶然で、キリは自ら、その場に訪れていたのではないか。
シカマルはくるりと身を翻して、地面を蹴った。
心臓が破裂するんじゃないかというほどに脈打っているのは、全力で駆け続けているからなのか。
それとも、キリを失う恐怖からなのか、自分でもわからなかった。
以前、キリと出会った場所を訪れたが、付近にキリの姿は見えない。
シカ(ここでもないのかよ!?)
焦る気持ちは高まり、最悪の事態が現実味を帯びてきた。
考えないようにと努めても、凄惨な光景が頭に浮かぶ回数は増える。
キリが見つからないまま、この森にも終わりが見えてきてしまって、心は痛いほどに締め付けられた。
しかし、森を抜けると探し求めていた人物が目に入る。
シカ(……っ、キリ!!)
その瞬間。涙すら出そうなほどの、言い様の無い感情が湧き起こった。
即座に駆け寄り、その体を抱きしめれば、キリの体温を感じて、一気に緊張が解けて心は緩む。
しばらくの間そうしていれば、もぞもぞと控えめに動いたキリが、小さく呟いた声が耳に届く。
キリ「……苦しい……」
要約すると。そろそろ離せ、というキリの言葉に、シカマルはそむく。
シカ「おう」
返事と伴わない行動に、キリは困惑しているようだった。
キリ「え……と、あの……」
シカ「ん、もーちょい」
いつまでもそのままでいると、キリが戸惑いを含めた声をもらすが、シカマルはもう一度、キリを強く抱き寄せた。
シカ(これぐらい、いいだろ)
本当に、先ほどまでの時間は寿命が縮まるような思いだった。
失うかもしれないと思っていたキリが今、腕の中にいる。その愛しさぐらい、もう少し味わったっていいだろう。