第90章 それぞれのご報告 ー猪鹿蝶編ー
シカ「そうかよ」
その返答は、傷付いた素ぶりなどまるでない。それどころか、明日には忘れていそうである。
そう、こういう男なのだ。奈良シカマルは。
いの(でも、そんなあんたがキリをねぇ)
いのは、キリと出会った時のことを思い出す。
当初のキリは、どれだけオマケをつけても〈良い子〉だとは言えなかった。
いの(私も今ではキリと話せるようになったけど、最初は全然駄目だったし)
樹の里から木ノ葉隠れの里に、一人でやって来た女の子を、いのは当初とても心配していた。
おせっかいな性分が顔を出して、何かと声を掛けたり、面倒を見ようとしていたのだが、全てキリにあしらわれてしまったのだ。
そのうち、キリが本当に人と関わろうとしていない事を悟り、いのはキリから手を引いた。
直接的に関わる事はなく、キリの私物を隠そうとしたり、そんな幼稚なことをしようとしているくノ一がいれば止めたぐらいだ。
ただ、いのの目が届かなかった時でも、キリは飄々とそれらを切り抜けていたのだが。
くノ一の中でも、キリは一人で異質な空気を放っていて。
ただ、いつも真っ直ぐな姿勢と、躊躇いのない言動が、ひどく凛として見えた。
いの「……でも、あんたは違ったのよねー」
シカ「あ? なんか言ったか?」
小さく呟いたいのの声は、シカマルには聞こえなかったようである。
いのの隣であぐらをかいて、後ろに両手をついているシカマルは、いつもの仏頂面だ。
その中で、シカマルがキリとの交際報告をしたからほんの少し気恥ずかしそうにしているのがわかるのは、幼馴染故だろう。