第89章 それぞれのご報告 ーお手紙編ー
「嘘だろ、うわーキリが……これみんなに言ったらヘコむ奴ら多発すんな」
衝撃的な報告に目を丸くしながら、キリに好意を寄せていたアイツやアイツを思い出して、同期はカラカラと笑い声を上げる。
「はあーその奈良シカマル? ってやつも、見る目あんなぁ。うちの華、掻っ攫ってんじゃん」
誰もが遠慮したその座を、持っていった男は如何程のものなのか。
シカマルの名に、ぴくりと反応を示したイチカは、横にあった資料の山を掴むと、力いっぱい放り投げた。
「うおっ!? な、なに!?」
イチカ「あんっっの男ぉ……!! よくも、キリを……!!」
怒りで震える身体を抑えきれずに、イチカは再び書類を掴んで、床へ叩きつけた。
「な、なに、そのシカマルってイチカも知ってんだよな?」
イチカ「知ってるけど!?」
「そんな嫌な奴なわけ?」
イチカ「あいつはいい奴よ!!」
キリが嫌な男を選ぶわけないだろうと、怒鳴られた同期は、イチカのあまりの剣幕に椅子の背に身を隠した。
「なんだよじゃあ、いいじゃねえか」
イチカ「そう、そうね、イイコトよねぇ」
「どうした? 殺し屋みたいな目になってんぞ」
イチカ「大体キリも、なんでこんな重大発表をさらっと文末に書くのよ!?」
まるで、それは締めの挨拶のように、さらりと流れる文だった。
イチカ「あ゛あっ、今頃何!? アイツはキリといちゃいちゃしてるわけ!? 」
憤慨するイチカを見て、同期は苦笑いを見せる。
「お前、本っ当にキリの事好きだよね」
イチカ「当然でしょう!? 当たり前なこと言わないで。物心つく前から大好きよ」
同じ施設で、同じ苦しみを分け合いながら、育ったキリが、するりと離れてしまうことが悲しくて、もどかしい。
イチカ「私の人生の半分は、キリで出来てるんだから」
確かに、奈良シカマルは良い奴だといえる。応援しようとも、思っていた。
だが、いざそうなると、この湧き上がる苛立ちを止められない。
その苛立ちの全ては今、奈良シカマル一人に向けられている。