第89章 それぞれのご報告 ーお手紙編ー
カカシがいなければ、キリと今頃こうして手紙を交わす事も、また会う事もなかったのだろう。
真実は何一つ明るみに出ないまま、キリは人殺しにされ、終わらない薬物実験が続けられたのだ。
そう思えば、ぞくりと背筋が冷えた。
鉛を飲んだかのように、またずんと腹の底が重くなる。
イチカ「一番……大切な時に、助けられなくて何が」
後に続く言葉は飲み込んだ。
偉そうに、何度もキリの親友だと口にした。それが事実であるように、願いに近いのかもしれない。
ギュッと歯をくいしばれば、イチカの目に涙が滲んでくるのがわかる。
そんなイチカの姿を見て、同期の瞳にも陰が宿った。
(……傷は、キリだけじゃないよなぁ)
当時、キリが置かれた環境を思い返して、後悔と罪悪感に駆られて。
それでもどこか心の片隅で、家族を殺した相手だと、怨みのような感情をキリに抱くことに激しく自己嫌悪する。
助けられなかった事を悔やんで、無力過ぎた自分に憤りを覚えて……いつまでも、スッキリ綺麗な心には戻らない。
「父親と兄ちゃんが死んだんだ。正常な判断が出来なくなって、当たり前だ」
キリを止めたイチカの父と兄は、殺された。
仕方ないなんて、とても言える話ではない。
キリも被害者だと。正常な判断が何かを理解していても、心にズレを生じるのが、人間というものだろう。
「……これからキリのために、出来ることしようぜ」
いつかまた何の負い目もなく、対等に笑えるようになる日まで。
そう言えば、ようやくイチカも複雑な笑みを貼り付けて、顔を上げた。
イチカ「……うん。そう、それしか……ないわよね。よし、キリがせっかく書いてくれたんだから、続き続き! えーっと……」
【今度、木ノ葉隠れの里に来た時は、きちんとおもてなしをさせて下さい。
イチカが来てくれた一度目も、二度目も、何もおもてなしが出来ず、申し訳なく思っています。
木ノ葉隠れの友人に、美味しい甘味屋さんや、良い修業場所を教えて貰ったので、今度は一緒に行きましょう。】
イチカ「へぇ……キリに、友達が出来たんだ」