第89章 それぞれのご報告 ーお手紙編ー
子どものような笑顔で手紙を開くイチカに、同期はやれやれといった様子で、苦笑い混じりに椅子へ腰掛けた。
「キリ、なんだって?」
イチカ「待ってよ、今から読むから。えーと、なになに……イチカ様。冬を越えて、日差しが暖かい季節になりましたね。ふふ、キリらしい挨拶ね」
さらりと書かれた字も、言葉も。
キリの人柄がよく現れていて、思わずイチカと同期は頬を緩めた。
イチカは、キリの手紙を読み上げていく。
【イチカは元気にしていますか。季節の変わり目に、また風邪を引いていませんか】
イチカ「やだもうキリったら、私ももう子どもじゃないのよ」
ね、と可笑しそうに笑って同期に同意を求めれば、軽くあしらわれる。
「いいから、次読んでくれ」
【私は、元気です。】
イチカ「キリも元気みたい」
「そりゃ良かった」
キリ一人、木ノ葉に残して来たことを心配していたため、この報告には二人とも安堵する。
【ナガレさんとも、いずれ話をする事になりました。】
〈ナガレ〉という名前に、イチカ達の空気が硬くなる。
「ナガレさんって、確か今、木ノ葉の上忍が見てくれてんだろ?」
イチカ「そう。…あの日、キリを樹の里から木ノ葉に連れてってくれた人みたい」
来てくれてありがとう、イチカにも色々な気持ちがあっただろうと、キリの手紙に綴られているのを見て、イチカは視線を落とした。
はたけカカシ。木ノ葉隠れの里の上忍。
今より昔、樹の里のみんなが、キリに悲しみと憎しみを向けている時、唯一キリに手を差し伸べてくれた人物である。
後から分かった事だが、あの暴挙は裏でナガレが扇動していたらしい。
ナガレは、騒動に紛れてキリを回収し、今後キリを実験体として個人で管理するつもりだったのだ。