第89章 それぞれのご報告 ーお手紙編ー
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樹の里に、一通の手紙が届いた。
「イチカー、なんかお前宛に手紙だってよ」
肩に黒鳥を乗せて、同じ施設で育った同期がイチカに声をかける。
おろせば肩まである濃い赤髪を後ろでひとつに結っている男は、持っている手紙をひらひらと左右に振った。
イチカ「手紙? そこに置いといて。今忙しいの」
「今見なくていいのか?」
イチカ「うん、後で見るから」
書類とにらめっこしているイチカは、手紙に一切目もくれずに告げる。
施設の創設者であるナガレの不在、さらに裏切り者であった事がわかり、樹の里は困惑の中にいた。
状況を治めるために、イチカは日々奮闘中なのである。
「そんなに根詰めてると、身体壊すぞ」
イチカ「仕方ないでしょ。落ち着くまでは。施設の子達には、まだ小さい子もいるんだし、フォローしないわけにはいかないじゃない」
イチカはごしごしと、霞む目を擦る。
もう何日、まともに眠っていないだろうか。
ナガレという司令塔を失った今、誰かが施設をまとめなくてはいけないのだ。
「ふぅん……じゃあ手紙は置いといていいんだな」
イチカ「何よ、やけにしつこいわね」
「あーあ、せっかくキリが手紙寄越してくれたのにな」
イチカ「……は!?」
がばっと顔を上げたイチカは、ようやく同期に視線を送る。
「ここ置いとくか」
イチカ「ちょっと、待って! キリからなの!? もっと早く言ってよ!!」
光の速さで立ち上がり、同期から手紙を分捕ったイチカは、いそいそと手紙の紐を解いた。
イチカ「あ、なんかいい匂いがする」
紐の深い青色が、どこかキリを連想して、イチカは笑みを浮かべる。