第4章 那田蜘蛛山
伊之助の首を掴む鬼の手から力が抜け、それと共に、高く持ち上げられた体が落ちる。
しかし、伊之助の体は地面に落ちることなく誰かの手によって支えられていた。
誰、だ……?
朦朧とし掠れる目でその姿を見ると、見た事のある横顔が目に入った。
「お前、は……!」
『伊之助、大丈夫か?』
名前だった。
名前は伊之助を小脇にかかえ鬼との距離を取りながら地面に着地した。
伊之助の首を締めていた鬼の腕がずしりと音を立てて落ちる。
あの瞬間に腕ごと切り落としたのだ。
名前は刀を構え直し鬼の方へ向き直る。
鬼は斬られた腕を再生しまた伊之助に襲い掛かる。
名前はその瞬間に、構えた刀を降ろした。
「水の呼吸、肆ノ型、打ち潮」
鬼の背後から聞こえた水の呼吸。
波打つ波紋が見え、富岡が、一瞬にしてその巨体をバラバラにした。
崩れ行く鬼を横目に富岡は名前に近寄る。
「後を頼む」
『承知』
すると呆然としていた伊之助が思い出したように叫び出す。
「俺と戦え半半羽織!!」
『伊之助……』
「あの十二鬼月に勝った!!そのお前に俺が勝つ!そういう計算だ、そうすれば一番強いのは俺って寸法だ!!」
「修行し直せ戯け者」
富岡に一蹴され瀕死の状態なのに騒ぎ立てる伊之助に名前は苦笑いを浮かべる。
『今のは十二鬼月じゃない、普通の鬼だ』
「わかってる!!十二鬼月とか言ってたのは炭治郎だからな!!俺はそれを……って!!どこ行くんだコラぁ!!」
富岡はそのまま何事も無かったのように森の奥へと姿を消してしまった。
「なんだアイツゥゥゥ!!」
『ほら、伊之助は怪我が酷いから動かない』
暴れる伊之助を抑えていた名前だったが、このままでは何も出来ないと思い懐から縄を取り出す。
『ごめんね伊之助』
「……!?な、なんだ!?なにやってんだ髪長ぁぁあ!!」
一瞬で伊之助を縛り木に吊り下げるように固定すると名前は大きく息を吐いた。
『怪我の酷さ分かってないでしょう、もう少しで救助が来るから、それまで大人しくしてなさい』
身動きが取れないと観念したのか大人しくなった伊之助。
名前は肩を落とすと富岡の消えた方へ目をやった。