第3章 もう一つの呼吸
名前は基本的に任務で怪我をする事がない。
かすり傷等の小さな傷は流石に絶えないが、それでも入院する程の大怪我はしたことが無い。
なので怪我人が入院している蝶屋敷には数回しか行ったことが無かった。
「しのぶ様お帰りなさい。貴方は……?」
蝶屋敷に入ると髪をふたつ縛りにし、しのぶと同じ蝶の髪飾りをした女の鬼殺隊士がしのぶの横に居る(名前)を見て首を傾げた。
「甲の苗字名前さんです。アオイは会うのは初めてでしたね」
『初めまして』
「神崎アオイです」
アオイと名乗った鬼殺隊士は(名前)を見ると深く礼をした。
とても礼儀正しい子のようだ。
「この方のお夕飯も用意できますか?」
「はい、大丈夫です。名前さん、ごゆっくりしていってください」
しのぶはアオイに食事を頼むと、名前を連れて空き部屋へと招き入れた。
「御夕飯まで少し休んでいてください」
『お気遣いありがとうございます』
用意された座布団に腰を下ろすと名前は小さく息を吐いた。
流れでここまで来てしまったが、本当に良かったのだろうか。
迷惑じゃないだろうか。
しのぶは浮かない顔をしている名前を見て、にっこりと笑って見せた。
「迷惑じゃないか、って顔をしてますね」
『……何でもお見通しですね』
「医学では顔色を見るのも大事な事ですしね。大丈夫ですよ、私が来て欲しかったのですから」
しのぶは名前を安心させるように言い、続ける。
「柱は皆、名前さんが柱になる事を喜んでいますよ」
『え……』
鬼を滅殺する為、両親や仲間の仇の為、お館様の為に柱になる事は悪い事ではないし覚悟は出来ている。
しかし心のどこかで皆に受け入れられるか心配だった。
その不安を悟られたので名前はしのぶを見て苦笑う。
『敵わないですね』
「ふふ、褒めても何も出ませんよ」
そう言うとしのぶは部屋を出ていった。