第3章 もう一つの呼吸
『し、不死川さん……?』
突然の事に名前は一歩下がろうとするも肩を掴まれているせいで動けない。
不死川は狂暴な外見や言動で隊士から最も恐れられている。
名前も本人には悪いが今までなるべく関わらないようにしていた。
「十二鬼月を倒した力だろォ?今まで隠してんじゃねぇよ!」
不死川はそう言うと距離を置き、おもむろに刀を抜いた。
『ま、待ってください不死川さん!!ここで貴方と刀を交えても仕方がない!』
今にも斬りかかってきそうな不死川の気迫に押され刀に手を掛けた。
その時
「あらあら、隊員同士の喧嘩はいけませんよー?」
透き通った声がその張り詰めた空気を解いた。
『しのぶさん……?』
「チッ」
そこには怖いぐらいの笑顔をした蟲柱の胡蝶しのぶが居た。
しのぶの登場に不死川は舌打ちをして刀を納めた。
『不死川さん、後輩をあまり虐めちゃダメですよ』
「ったく、うるせぇなァ」
そう言いつつもしのぶの言う事を素直に聞き入れ不死川は名前に背を向けた。
「またその力見せてもらうからなァ?」
そう呟くと不死川はその場から去っていった。
嵐のような展開に名前は呆然と不死川が居た所を見ていた。
「大丈夫ですか?」
『あ、はい……』
気が抜けたように返事をする名前にしのぶはクスッと笑みを浮かべた。
「名前さん、柱昇格、おめでとうございます」
『まだまだです……ありがとうございます』
「不死川さんもあれは激励のつもりなんでしょうけど」
やはり、柱になる事も既に伝わっているようだ。
するとしのぶは名前に近寄り顔を覗き込んだ。
『……?』
「疲れてますね?」
『い、いや……』
すぐに見破られるとは思うが、名前は作り笑いを精一杯しのぶに向けた。
しのぶはそんな名前を見ると少し考えた後、閃いたように手を叩いた。
「名前さん、蝶屋敷でご飯、食べていきませんか?」
『へ?』
「名前さん、その感じだと数日はまともに食事を取っていませんね?」
そういえば最近は中々しっかりとした食事も取っていなかった。
「さぁさぁ、行きましょう」
名前は半ば強制されるようにしのぶに腕を引かれ、蝶屋敷へと向かった。