第3章 もう一つの呼吸
下弦の陸をいとも簡単に倒した名前さん。
この人の「音」は特殊だと思った。
青い空のように清らかで、それでいて深い海に潜った時のように音が分かりにくい。
刀を抜いた時、一瞬音が消えた。
最終選別の時も近くに来るまで音に気づかなかった。
とても静かな音だ。
……
善逸は名前の後ろ姿を見て思う。
隣では伊之助が名前に勝負を持ちかけているが、名前にやんわりと断られ、炭治郎に止められていた。
名前は下弦の陸が完全に消滅したのを確認すると、本当に何事も無かったかのようにまた歩き始めた。
名前は鴉の案内で藤の花の家紋の家まで善逸達を案内した。
「休息ゥ!休息ゥ!負傷ニツキ完治スルマデ休息セヨ!!」
鴉が家の前で叫ぶ。
炭治郎は休んでいいのかと聞いていたが、名前を除く三人は重症である。
家からおばあさんが出てきて、鬼殺隊員である事を確認すると家に上がる様にと言った。
名前は三人が家に入るのを見て安心したように息を吐き、炭治郎がそれに気付き振り向いた。
「名前さん?」
『俺はこのまま別任務だ。三人ともよく休むように』
「俺と勝負しねぇのか!!?」
『怪我治してからね』
伊之助は最後まで名前に襲いかかろうとしているのを善逸達に抑えられていた。
名前はにっこり笑うと手を振って次の任務へと向かった。
……
「天の呼吸、か…」
藤の花の家で出された食事を食べながら、善逸が呟いた。
炭治郎が善逸を見る。
「善逸は見たことがあるのか?」
「いや、初めて見た……炎の呼吸の派生なのかな」
「俺は獣の呼吸だぜ!!がははっ! 」
「分かった、分かったから食べながら喋らないでくれ!」
米粒を撒き散らす伊之助を善逸が宥める。
炭治郎は(名前)が言った言葉を思い出しながらご飯を口に運ぶ。
『その耳飾り……』
『日の呼吸という呼吸を知っているか』
『よく見ておくように』
竈門家に伝わるヒノカミ神楽。
火の呼吸について聞こうと思っていたが、聞きそびれてしまった。
なにか、そのふたつはどこかで繋がるような気がする。
そして、名前さんの使っていた天の呼吸も。