第1章 あの人は、、、
鈴音は猫が好きだ。家で飼っている訳ではないが、この辺りには野良猫がいる。今日もその子に会う為に、河原の木陰へと向かう。
「あら?」
いつもの場所に、いつも見ない人が居る。
(あの人は確か、、、)
この集落の少し先の山中に屋敷があると聞いた。鈴音の2倍はあろうかという長身。筋肉質な身体。首にはいつも大きな数珠をかけていた。
「こんにちは。」
鈴音は背中に声をかけた。ゆっくりとこちらを振り返る。近くに寄ると、会いたかった猫が、彼の膝の上で寝ていた。
「猫、お好きなんですか?」
「、、、あぁ。」
初めて聞いた彼の声は、低く、心地よいものだった。彼は優しい顔で、猫の背を撫でていた。
「私、最近になってやっと抱っこが出来るようになったのに。ずるいです。」
「、、、そうか、それはすまない。」
表情が変わらないが、穏やかそうな人だ。
「私、鈴音って言います。お名前をお聞きしてもいいですか?」
「、、、悲鳴嶼行冥だ。」