第4章 猫屋敷?
「、、、忘れ物はないか?」
「はい、大丈夫です。もしあったら、また取りに来ますから。」
今日、鈴音は悲鳴嶼邸に引っ越すことになっていた。箪笥などの家具は悲鳴嶼邸にあるものを使っていい、と言われているので、鈴音の荷物は身の回りの物だけだ。大きめのバッグ2つに収まってしまった。
「鈴ねぇ。」
玄関から声がした。子供の声のようだ。鈴音が小走りで玄関に向かうと、10になるかならないかの男の子が立っていた。
「あら勝くん、どうしたの?」
「、、、鈴ねぇ、本当に引っ越しちゃうの?」
「そうよ。でも遠くに行くわけじゃないわ。またすぐ会えるから。」
悲鳴嶼が鈴音の荷物を持って玄関に来た。勝くん、と呼ばれた男の子は、キッ、と悲鳴嶼を睨みつけた。
「そいつと一緒に行くのか?」
「えぇ、そうよ。とっても優しい人よ。」
「、、、鈴ねぇ泣かしたら承知しないからな。」
勝はそう言うと、踵を返して走り去った。
「、、、近所の子供か?」
「えぇ、2軒隣りの勝くんって男の子です。私近所の子供達を預かっていたんです。遊んであげたり、読み書きを教えたりしてました。引っ越すのでもう預かれない話しをしたら、ずいぶん残念がられました。」
鈴音が困った様に微笑む。鈴音は猫も好きだが、子供も好きだった。いつもたくさんの子供達に囲まれていた。
「、、、そうだったのか。また会いに来よう。」
「はい。」
「、、、そろそろ行こう。」
「わかりました。」
鈴音は玄関に鍵をかけて、家に背を向けた。