第3章 その傷を、、、
「いや、胡蝶。私が塗るのはおかしいだろう。」
「ですが、彼女自身では塗れません。ここは連れてきた悲鳴嶼さんが面倒をみるべきではないでしょうか?」
しのぶにニコニコと言われればぐうの音も出ない。
「、、、とりあえず診察が終わったのであれば、帰ろう。
胡蝶、世話になった。」
「鈴音さんにも言いましたが、1週間程したらまた来てください。」
「、、、承知した。」
悲鳴嶼に促され、鈴音も診察室を後にする。
帰り道。いつも無口な悲鳴嶼だが、いつも以上に無口であった。鈴音は、もしや悲鳴嶼の方が具合が悪いのかと思う程だった。
「、、、鈴音。」
「はいっ。」
突然名前を呼ばれ、鈴音の声が裏返る。悲鳴嶼は面白そうに微笑んだ。
「、、、ずっと考えていたことがある。」
「はい。」
鈴音は何を言われるのかと、ドキドキした。
「、、、うちに来ないか?」
「悲鳴嶼さんのところに、ですか?」
「あぁ。ちょうど身の回りの世話をしてくれていた者が辞めてしまってな。薬のこともあるし、女性の一人暮らしは何かと不便や危ないこともあるだろう。部屋も空いてるし、うちで住み込みの家政婦をしてもらえないだろうか?」
「、、はい。よろしくお願いします。」
考えるよりも前に、鈴音は返事をしていた。悲鳴嶼は安心したような表情になる。
「すぐにでも越してくるといい。」
「ありがとうございます。」
こうして二人の生活が始まろうとしていた。