第4章 カエルの正体
「もう少し離れてくれませんか?」
横乗り状態の私の体を片手で支え、もう片方で綱を握られると、自然と信長様に包み込まれているような形になって、とても落ち着かない。
「はっ?ならば貴様が降りよ。オレはそれで構わん」
「やっ、それは……ごめんなさい。大人しくします」
(足痛いんだもん。着物も土でボロボロだしもう歩く気力はないよ)
「ククッ、貴様の表情はコロコロと変わって見飽きぬな」
「だから、あまりそう言うこと言わないでください」
「何を言おうが俺の勝手だ」
「う……」
(なんてオレ様な人なんだ)
……でも、
「あの、さっきは助けて下さり、ありがとうございました」
そう言えばまだお礼を言ってなかった。
「どこも怪我はないか?」
「はい。打ち身がちょっとだけです」
「ならいい。あやつらの命を助けると言う貴様の願いを聞いてやったんだ。今夜の晩酌はさぞや有益なものであろうな?」
悪戯な顔が私の顔を覗き込んだ。
「うっ、…精一杯、おもてなしさせて頂きます。でもあんまり飲みすぎないでくださいね」
(酔った勢いで襲われても困るし…)
「貴様、誰に向かって物を言っておる?」
「織田信長様です。すみません」
「城に戻る。落ちるなよ」
「優しくお願いします」
「ふっ、それは貴様次第だ」
パシっと軽く綱を鳴らすと馬はゆっくりと歩き出す。
さっきの男たちを殺しそうな殺気を放つのも信長様なら、今のように悪戯な顔を見せるのも信長様。
怖いけど、怖くない。恥ずかしいのに嫌じゃない。むしろこのやり取りがちょっと楽しいなんて思ってしまっている。
カエルはまだ出てこない。でも一目惚れでもないからきっと恋には落ちない。
戦国ライフは始まったばかり。
私と信長様との距離はこの時はまだ友達にも達してはいない。