第29章 収穫祭の珍事
「そうだな……」
(さて、どこまで話してやろうか)
湯着を完全に両肩から下げ露わになった胸を掴みながら、どこまで話してやろうかと思案する。
「ぁっ、」
「まずその甘い声、あの女にはなかった」
「え?その幽霊に触れたんですか?」
(触れてなどいないが、この言い方はマズいな)
「いや、触れずとも勝手にやっておったわ」
「やったって……っ、信長様の前で一人でって事ですか?」
「ああ、そうだ」
(正しくはやらせたんだがな)
「……っ、なんて大胆な幽霊……」
伽耶は恥ずかしそうにそう呟いた。
「その無駄に恥ずかしがる仕草も、あの女には全くなかった」
「っ、そうなんですね。でも、あれ?ってことは、信長様、その人の…その…ゴニョゴニョを見たって事ですかっ!?」
(ほぅ、そう来るか)
悋気を起こしそうな様子に愛おしさと笑いが同時に込み上げた。
「ほとんど見てはおらん。貴様を助けに行こうとその女はその場に残して来たからな」
「えっ、その状態のままにして来たんですか?」
「そう言っておる」
(貴様の事以外、俺にはどうでも良いからな)
「何だか…その幽霊が気の毒になって来ました」
コロコロと表情を変えながら、伽耶は複雑な表情を浮かべた。
「人の恋路を、しかも俺たちの仲を引き裂こうなど笑止千万。しかも俺の女に化けて俺を騙そうとした罪と、貴様に手を出そうとした罪をそれくらいで済ませてやったんだ」
「ふふっ、幽霊にまで罪を償わせるとか、本当に信長様ってブレないですよね」
「ぶれる、とは何だ?」
「えっと…気持ちに揺るぎが無いって事です」
「当たり前だ。一度口にした事は変えん」
そう答えて伽耶に口づければ、奴は置かれた状況を思い出してモゾモゾと俺の腕の中で暴れ出す。
「伽耶諦めろ。貴様をここで抱くことは決定事項で、俺はぶれん」
(俺ではないと気付かず、僅かとはいえ他の男に触れさせた仕置きは受けてもらう)
「っ……、のぼせない程度でお願いします」
観念して俺に身を委ねた伽耶の体の重みを湯の中で感じながら、俺は本物の愛しい女に合図の口づけを送った。