第29章 収穫祭の珍事
夏祭りが終わり、あっと言う間に秋が訪れ、本日は収穫の手伝い兼、収穫祭に招かれ、とある農村へ信長様とやって来た。
「信長様、伽耶様、ようこそいらっしゃいました」
今回は信長様と二人旅。
今夜宿泊する宿の前に来ると、村の人々が何名か待っていて出迎えてくれた。
本来ならば、その土地の領主の屋敷に泊まる事が一般的だけれど、私はいつも信長様にお願いをして宿を取ってもらっている(理由は…うぅ…お察しください)
「信長様、伽耶様、ようこそいらっしゃいました。小さな村ではありますが、どうぞごゆるりとお過ごし下さいませ」
領主の方が笑顔で私たちに挨拶をすると、
「出迎えご苦労」
威厳に満ちた声で信長様が声を掛け、馬から降りた。
「明日までお世話になります。宜しくお願いします」
信長様に馬から降ろしてもらい、私も挨拶を交わす。
「おや?伽耶様、お顔が赤い様ですが大丈夫でございますか?」
「え?あ…だ、大丈夫です。少し日差しが暑くて、あはは…」
ここまで来る途中に、信長様に馬上で色々とされた為、と本当のことを言う訳にはいかず、領主の鋭い突っ込みに、私は顔を手で仰ぎながら咄嗟に笑って誤魔化す。
「そうでしたか。では何か冷たい飲み物でも用意致しましょう」
「お気遣いありがとうございます」
女中さんに何か飲み物を用意する様に伝えている領主に申し訳なさを感じていると、
「本当の事を話せば良いものを」
顔だけでなく身体中の火照りの原因を作った張本人が、私の耳元にイタズラに囁いた。
「っ、もう、あんな事言えるわけないじゃないですか」
「どんな事だ?言えるか否か判断してやる」
するりと私の腰に手を回して信長様はさらなる熱を煽ってくる。
「絶対に言いませんっ!」
これ以上顔が熱くなるわけにいかない私はその逞しい腕をふりほどいて距離を取った。
こんなことばかりしてくるから、人様のお屋敷に泊めてもらうわけにはいかないのに…
そして困った事に、こんなやり取りを喜んでいる自分がいるのも事実で…
「伽耶 」
「なんですか?っ……ん!」
怒ってなんかいないけど、過剰なスキンシップに困ってはいるから、渋い顔で振り返ると、振り向きざまに唇を奪われた。