第27章 知らぬが仏
「何を言ってる。これは昨夜のホタルだ」
「………は?」
(何ですとっ!)
「ああ、ホタルを見たことがないと言っておったな。これが奴らの真の姿だ」
「え、ええーーーーーーっ!」
(こ、これがホタルっ!)
既にお亡くなりになっているその亡き骸からは、カブトムシやクワガタを連想させる黒光っぷりと硬そうな羽根が伺える。
「こんなに長細くて大きいなんて知りませんでした。もっと、てんとう虫のように丸くて小さな体で光っているのかと……」
(こんな黒光甲虫とは聞いてないよ—-っ!)
「知らぬが仏というやつだな」
信長様はそう言って笑うと布団から出てホタルの死骸をポイポイっと縁側から落としてくれた。
(ああ、これも知らない方が良かった……)
昨夜はあんなにも幻想的なシチュエーションでと思っていたのに、こんな虫が飛び交う中で致していたなんて………
「ちなみに、ここの名物はイナゴの佃煮だが、その様子では食べられそうにないな」
「えーーっ!絶対に無理です。朝餉で出て来たらどうしよう」
縋るように信長様を見るけど、
「好き嫌いはするな。出されたものは食べよ」
ピシャリと一言。
「えーーーっ!」
その後出された朝餉の小鉢には、信長様の言っていたイナゴの佃煮が乗っていて、
「お願いします。信長様っ、何でも言うこと聞きますからっ!」
と必死で頼み込み……
帰り道、何をされても抵抗しないという事を条件に食べてもらった私は、
「っぁ、そこはダメっ!」
口ではとてもいえない事を馬上でされながら、安土へと帰ったのだった……