第25章 余裕な彼
「案ずるな。貴様は俺が買ったと昨夜嫌ってほどその体に刻んでやったはずだ」
袖を掴む私の手を取り口づけ、信長様は意地悪く囁く。
「っ、でもそれじゃあ…」
「愛しい女のためならばいくら金を積もうと構わん。と言いたい所だが、それでは貴様の気がおさまらんと貴様は言いたのであろう?」
「はい」
「であるなら、貴様の身請け金と昨夜の衣装代は全て俺が立て替えたことにしてやる」
「え?」
それって…、私にお金を返させてくれるってこと?
ありがたい申し出に身を乗り出すと、
「言っておくが、針子仕事で返して行くには相当な額だと思え」
「わ、分かりました。頑張ります」
厳しい言葉が返って来た。
(何年かかるか分からないけど。これは私の責任だから頑張ろう)
「利子も取る」
「ええっ!利子とるんですかっ?因みに金利はどれ位ですか?」
「俺は高利貸しだ。覚悟しておくんだな」
悪徳商法っ!いやいや、金利も知らずに借りた?私が悪いんだ。(よね…?)
「返し切れるように頑張りますぅぅぅ……」
「ふっ、これで貴様は一生かけて俺に支払わねばならなくなったな?」
オレ様はイタズラな笑みを浮かべて私の顔を覗き見る。
「うーー、一生かけて返しますから、一生側に置いてくださいね」
「離してやらんと言ったはずだ」
眩しいほどの俺様な笑顔に見惚れていると、出発の時間だと家臣の人が伝えにきて、信長様はご機嫌な様子で私を椅子から抱き上げ馬へ乗せてくれた。
息絶えるその日まで針子を続けて借金を返済する事が決定してしまったけど、信長様の側に一生いられることも確定したから、やっぱり私は幸せだ。
「信長様、私…頑張って働いて返しますね」
信長様の馬のここは私の定位置でずっとありますように。
「……惚れた女から金を取るなどする訳がなかろう………と、もう眠ったのか?……ククッ、昨夜は相当無理をさせたからな。まぁいい。これで貴様の一生は俺のものだ。生涯俺のことを考えて過ごすがいい」
信長様のこの言葉は、昨夜の余韻著しくその定位置で眠ってしまった私の耳には届かず、チュッと優しく口づけられたことも知らず、私は安土へと戻って行った。